「餅VSカビ」長い闘いの歴史に終止符を打った、ある企業の粘り強い取り組み

お正月と言えば……

今朝、朝食にお餅をいただきました。いつも朝はパン食がほとんどなので、子ども達は大喜び。朝からそれぞれ3つも平らげていました。餅と言えば、昔はお正月にいただくものと相場が決まっていました。私自身、いつの頃だか記憶が定かではないほど幼い頃、大勢で集まって餅をついた思い出があります。その餅のおいしかったこと!そういった記憶も影響しているのか、一年中餅を楽しめるようになった今でも、餅は特別な食べ物という印象が残っているのです。


お餅に生えたカビは食べても大丈夫?

ところで、皆さんの中には、「餅に生えたカビは食べても影響がない」と聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?そもそも、現代のように冷凍技術が発達し、真空パック入りの餅が当たり前になった私たちにとってはカビのはえた餅など気持ち悪い以外のナニモノでもありません。

しかし、これだけ清潔好きと言われる現代においても、年輩の主婦の方を中心に、餅にはえたカビだけは大丈夫と信じている方が多いことには少々驚きます。では、なぜ「餅にはえたカビは大丈夫」と真しやかに語り継がれてきたのでしょうか。


実は、1932年2月9日付の読売新聞には次のような栄養研究所長の談話が掲載されています。「 青黴、 乳黴、麹黴の類からは大して毒になるようなものは分泌しません。然し、餅は元来含水炭素が主成分なので酸性物質のものを出すが、その中には極弱い毒性のものもあるが、問題にするほどではありません。」戦前は、大量にカビが生えて酸っぱくなった餅は食べない方がいいけれど、毒性は極めて弱いので食べても大した問題はないというのが一般的な常識だったようです。


ところが、1950年代になって輸入米から青カビが大量に見つかった「黄変米事件」などを経て、これまでの常識に少しずつ変化が表れはじめます。1966年5月29日の朝日新聞は、「これまでの“カビ観”を改めなくてはならないかも知れない」と前置きしたうえで、農林省食料研究所の角田広博士が、もちに生えていたカビ17種類の中から数種類の毒カビを発見、もちろん、その量はきわめて少なく、カビもちやカビ米を食べてすぐ中毒した例はほとんど見つかっていないものの、「長期間食べた場合、絶対に影響がないとは言い切れない」と警告しています。


しかし、1971年1月15日の朝日新聞では、再び「カビがはえたらカレーもちもおいしい」というタイトルで、「水もちはなるべく早く食べること。においが気になりだしたら、焼いてからカレーやシチューの中に入れて食べるとおいしいもの。」と、カビが生えた餅をおいしくいただく知恵を紹介していて、餅とカビに対する常識に変化がない世間の様子が垣間見られるような記事を掲載してもいるのです。ちなみに「水もち」とは、食べきれず、カビが生えそうになったり、乾燥してきてしまった餅を、水につけておく保存法のこと。水を毎日変えればかなりの日数おいても大丈夫、というのが定説でした。


餅とカビとの戦いに終止符を打った企業

このように、餅にカビが生えるのは当たり前とされながらも、できるだけカビを防ごうと、先代は様々な工夫を凝らしてきたわけですが、それに終止符を打ったのが「サトウの切りもち」で有名な 佐藤食品工業株式会社です。


今では当たり前になった一切れずつきれいに包装された「サトウの切りもち」、実は最初はハムのような形をしていたようです。想像の通り、これは実に食べにくく、同社はのし餅の縦横に筋を入れ簡単に割れるようにした板餅を半真空状態で保存することで6ヶ月保つように改良、しかしこれでもまだ食べにくいことには変わりがありませんでした。



なぜなら、当時の板餅は、一度包装を開けると16切れの餅を一度に食べなければならかったし、もっと長く保存できるようにしてほしいという消費者からのニーズもあったと言います。1973年には、レトルト殺菌釜、三連包装機といった多数の革新的機械を導入、その結果「サトウの切りもち」は一年の保存期間を実現、封を切っても余らせることなく食べきれるようになりました。



その後も同社は、おいしさを損なう加熱処理に代わって、食品のおいしさや鮮度を保持する脱酸素材の開発、無菌状態で生の餅をまとめて袋に入れた無菌化包装餅、さらに1983年には、生の餅を一個一個無菌的に個別包装した現在の形を実現するに至るのです。おかげで、私たちは、一年中つきたてお餅のおいしさを味わえるようになりました。



今の私たちは、餅にカビが生えていることを目にすること自体少なくなり、そんな餅を発見しようものならクレームが当たり前と思っています。しかし、それまでには実に何十年にもわたる企業の粘り強い取り組みがあったわけですね。



みなさんはどんなお正月を過ごしましたか?

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