時には人生を狂わされてしまう人も……「マルチビジネス」の実態とは

今でこそ一時の勢いは衰えているように見えますが、20年ほど前は、結構マルチ商法とかねずみ講と呼ばれる怪しいビジネスが日本でも隆盛を究めていたように記憶しています。「誰々から久しぶりに電話がかかってきたと思ったら、勧誘だった」とか「会おうというから出かけたのに、気がついたら他の人が出てきて会員になるよう説得された」とか、しばしば耳にしたものです。

まあ、ほんのいっときおいしい話に目が眩んだり、若くて判断ができなくてフラフラと手を出してしまったとしても、また元の人生に戻れればそれも苦い経験ですむのかもしれません。しかし、時にはそれで人生をめちゃくちゃにしてしまう人がいるから怖いです。実は知人にもいました、そういった人が。

マルチ商法にはまって精神病に

彼はもともと山っけの強い人でした。父親から厳しく躾けられ、優秀なお兄さんに比べて自分は認められていない、差別されていると感じていたようです。社会人になってもその気持ちに変わりはなく、誰もが知っているような一流企業に入りながら、一山あてて父親に認められたい…その気持ちが彼をマルチ商法にハマらせたのではないか、あくまで推測ですがそんな風にも思えます。

ある日彼は言いました。「すごくいい話があるんだ。」そして、散々もったいぶった末に熱心にその‘すごくいいビジネス’の話をはじめたのです。まあ、簡単に言えば、いい商品があって、それを知り合いに売って会員を増やしていけばどんどんお金が入ってくるという、ありがちな話です。言うほど簡単ではないことは、教養ある彼ならおそらく薄々とでも気がついていただろうに、そのビジネスがいかに効率がよく会員を広げられる仕組みであるか、会員が増えさえすればどれだけたくさんのお金が入ってくるかについて、とうとうと一時間くらいも熱弁をふるったのです。

しかし、その頃は既にその手の手法に問題があることは誰でも知っている時代。さっぱり話に乗らない私を前に、最後は「俺のことを信用してくれ。」と人情に訴える作戦に出たのには閉口しました。まあ、私は彼が根っから悪い人でないことは既に知っていたので、そのうち熱も収まるだろうとさして気にしませんでしたが、彼は派手にそのビジネスにハマり、あっという間にウワサが広まり、友人を失いました。私が最後に彼と話をした時には、既にうつ病のようになっていて「夜眠れない。天井を見てると押しつぶされる気がする。俺、大丈夫かなあ。」と言っていました。それから、家庭もめちゃくちゃになり、彼自身も本格的な精神病になって病院に入ったと聞いたきり、どうしているかわかりません。

まあ、これは最悪に近い例で、しかも精神病になった原因のすべてがマルチ商法にあるとは言えません。だとしても、一人の人間をここまで夢中にさせるマルチ商法ねずみ講といわれるビジネスの魅力とはなんだろう….と不思議に思うのです。おいしい話は世の中に多々あれど、ここまで人を盲目的にさせるビジネスってそうそうないのではないでしょうか。

わかりやすく夢を見させてくれるマルチ商法

前述の彼がそうだったように、山っけがある人にとって、マルチ商法はわかりやすい形で夢を見させてくれるのかもしれません。しかし、マルチビジネスを行うことは多大なリスクを背負うということです。友人を失うかもしれないし、在庫を抱えることもあるかもしれない。前述の彼のように、家族も仕事も失い、うつのような状態になってしまうこともあり得ます。

この種の手法にひっかかる人は、けしてその話がおいしい話というだけで飛びついたというだけではないような気がします。山っけはあるかもしれませんが、それより、日頃得られない人との繋がりや達成感を得たい、人に認められたい、自分が何者であるかを確認したい、そんな風に感じている人こそはまりやすいのではないでしょうか。前述の知人の深い孤独を思うと胸が痛みます。やはり、マルチビジネスに容易に手を出すのはやめるべきであると思います。

☆関連記事☆
あなたの”心の病”は誤診かも?!”心の病”が目に見える時代到来
うつ病の彼女が私とだけ会いたがる理由
サラリーマンに突然降りかかる「解雇通知」……こんなとき、あなたならどうする?!