華やかな世界だけじゃない……スポーツ選手が抱える闇

数年前の話になりますが、元プロボクサーの奥様とランチをご一緒したことがあります。ご主人は、日本ライト級王座、東洋太平洋ライト級王座を獲得、惜しくも世界王座獲得はなりませんでしたが、数回目の世界王座挑戦で王者に一歩も引かない執念のボクシングスタイルは感動を呼び、多くのファンを引きつけ、その試合は後に同年の年間最高試合に選ばれたりもしました。

ボクサーのリスクとリターンは見合っていない?

しかし、彼女によれば、ボクシングはチャンピオンになったとしてもファイトマネーは1,000万円程度、選手生命も短く、引退後の生活の保障も一切ないそうです。その頃は、ご主人はトレーナーとして若い選手の育成を手がけているということでしたが、それほど豊かな生活をしている様子はありませんでした。

その上、選手時代の減量の無理がたたって内臓はボロボロ、通院しながら治療を続けていると話しており、なんというか、チャレンジすることによるリスクと見返りがまったく釣り合ってないと感じたものです。これはボクシング業界に限った話ではありません。スポーツ業界は、メディアで取り上げられることも多く、世の中を湧き上がらせることのできる数少ない世界。しかし、メディアに取り上げられる人なんて氷山の一角、どんなに活躍やした選手でも引退後の第二の人生はぱっとしなかったり、そもそもスポーツ業界に入れずあきらめたりする多くの選手がいるのが現実なのです。

スポーツ選手のセカンドキャリアを支援する企業

プロスポーツ選手の抱える将来への不安を少しでも解消しようと、プロスポーツ選手のキャリアを支援する「プロスポーツ選手向けセカンドキャリア支援プログラム」を導入しているのがサイボウズ株式会社です。それは、近々プロスポーツ選手としての継続が難しくなる、または将来への不安を抱えている選手へのキャリア支援を行うというもの。

具体的には同社への採用募集に応募し、内定を受けた選手には内定を受けた後でも最長3年は入社を延ばせるという「複数年パス(最長3年)」を発行、内定後、しばらくは自分の夢を達成するため、安心してスポーツ活動を継続していくことが可能になるという内容です。また、入社までにある程度の業務に関係する知識やスキルを養えるように研修や資格試験などの費用を同社が負担する「スキルアップ支援制度」もあるそうです。

なるほど、スポーツ選手にとってこのような支援があることは、ある程度安心感があるかもしれません。しかし、こういった企業はけして多くはありません。選手達はごく限られた選択肢の中から選ばざるをえないわけです。つまり、より本質的な問題は、ある時期をスポーツにかけた選手たちがスポーツ以外に活躍できないという、その事実こそが問題なのです。

スポーツとはやや違いますが、昔の同僚に青春時代の全てを山登りにかけていたという男性がいました。30代になり、その人は将来に不安を感じ山登りをやめ、企業人として生きていくことを決意したわけですが、はっきり言って仕事面では使いものになりませんでした。山男のイメージ通り、熱意があり、礼儀正しく、裏表もない好青年なのですが、パソコンは使えない、ビジネス常識は知らない、つまり仕事が極端にできないので、私も後輩としてフォローの仕様がなく困りました。結局、彼は「オレには山登りしかない。」と会社を退職し、山に戻っていってしまいました。

スポーツと職業の両立は

スポーツと職業の両立はそれほど難しいものでしょうか?
日本には「文武両道」という言葉があります。「ボクシングにかけているけど、将来は学校の先生になりたい。」などといったことはそれほど難しいことでしょうか。ただ、そういった土壌がないだけのような気もします。

青春時代を何かに打ち込むことはすばらしいことですが、同時に若い人がスポーツだけをやっていればいいと思うことがないよう学校や家庭で導いてあげることは、スポーツ選手の第二の人生をお膳立てしてあげること以上に大切ではないでしょうか。一般的には、スポーツで活躍できる期間は短い、それ以降の人生のほうがずっと長いのですから。

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